写真撮影における「肖像権」を考える
弁護士 味岡良行
■肖像権を侵害しないために
 肖像権とは、自己の肖像を写真、絵画、彫刻等として撮影されたり描かれたりしない権利、また、これを利用されない権利をいいます。写真家にとって肖像権の侵害は最も身近な法律問題なので、肖像権を侵害しないためにはどうしたらよいかという問題をご説明します。
 一般的にこの問題に対する無難な回答は、「撮影時に可能な限り事前に同意を得ること。文書でも口頭でもよいが、文書が望ましい」というものです。しかし、現実には、スナップ写真を撮るときにそのような手順を踏むことはできません。したがって写真家にとっての関心事は、事前の同意なくして撮影することができるのは、どのような状況においてかということです。  過去に肖像権の侵害として訴訟になったケースは、大部分が(1)著名人の写真が雑誌等のマスメディアや写真集で公表されたケース、(2)犯罪報道に関連して写真が公表されたケースです。
 芸能人、著名人の言動は報道の対象となるので、報道目的の撮影・公表のために肖像権は制約を受けます。しかし、肖像自体に商品価値又は顧客誘引力があるので、芸能人の写真にはそれ自体財産的価値があります。写真の無断撮影及び使用は財産権の侵害となり、対価を伴わない肖像の使用は、報道目的での公表を除き肖像権侵害となる可能性が大です。また、誰もが秘匿しておきたい私生活の暴露に及ぶ肖像の使用は肖像権の侵害となります。
 一般人の肖像には財産的価値はありませんが、一般人といえども人格的利益としてみだりに写真を撮影されたり、無断で公表されない利益を有しています。したがって、プライベートな場での撮影・公表には当然に承諾が必要です。また、公共の場であっても、一般人が通常とらない姿態や、一般人の感受性を基準として撮影・公表を好まない形態を撮影・公表する場合は、承諾が必要となります。
■アマチュア写真家のスナップ撮影
 アマチュア写真家が一般人を対象としてスナップ写真を撮影する場合には、「撮影者=一般人 vs 被写体=一般人」という関係です。しかし、アマチュア写真家であっても撮影するだけに止まらず、写真集への掲載、コンテストへの応募、写真展への出展などの方法で写真を公表する場合は、肖像権侵害が問題となってきます。
 写真コンテストでは、人物の写っている写真の場合、応募者側が被写体との間で事前に了解を得るよう募集要項に記載されていますが、仮に全ての撮影に事前に文書で承諾を得ることを求めると、スナップ写真が存在し得なくなります。
 そこで、現実に承諾を得なくても肖像権を侵害しないというための理屈として、撮影の承諾を推定できる場合には承諾があったと同視できると考えることによって、現実の承諾が不要な場合が出てきます。
■スナップ撮影の承諾を推定できる場合
 それでは、「承諾を推定できる」とはどのような場合でしょうか。  これは、被写体自身が撮影を承諾する意思を表明しているような状況を指します。例えば、お祭り会場、運動会会場、観光地などの公共の場で、カメラやビデオの撮影者が大勢いるところに来ている人たちには、撮影の承諾を推定できます。
 お祭りでは御神輿の担ぎ手も見物人両者とも、撮影を承諾していると推定できます。運動会、観光地もこのケースと同様に考えることができます。ただし、プールや海水浴場のように水着を着用している場所は、昨今では承諾は推定されません。
 承諾の推定には、撮影者側も撮影する意思を表明したり、撮影する態度を公然と示すことが必要です。すなわちカメラを構える、三脚を使用するなどです。なお、被写体にカメラの存在を認識させない盗撮は、これにあてはまりません。
 以上、承諾が推定される状況をご説明しましたが、注意しなければならないことは、承諾が推定されるためには、
(1)被写体となった個人の内心的な意思を拠りどころとするのではなく、客観的状況に基づいて判断すること。
(2)形式的に判断できる問題ではなく、個別具体的な状況によって承諾が推定されるかどうかが変化してくるということ。

 例えばプールでの撮影でも、家族のスナップの背景に他人が入ってしまった場合は肖像権侵害にはならないでしょうし、運動会に著名人が父兄としてきている場合は侵害の問題が出るでしょうから、場所や場面で形式的に決められるものではないことも注意してください。  また、撮影には承諾を推定できるとしても、公表にまで推定が及ばない場合も少なくないでしょう。平成17年9月27日の東京地裁の判決は、銀座を歩行中の人物を無断で撮影し、写真をインターネット上のサイトに掲載した行為につき、被告の財団法人日本ファッション協会に対し肖像権の侵害として慰謝料など35万円の支払を命じました。
入賞・入選作品を
ポストカードにすることについて

角尾栄治/事務局長
 先日、「第53回二科会写真部展」の入選作品をポストカードにして、知り合いに配られた方がいました。
 このカードの写真面には、作者の入選作品と共に、「第53回二科会写真部展」という見出しおよび当会のシンボルマーク、そして東京展の会期と会場が印刷されており、作者自身の氏名は見あたりませんでした。
 一見すると、当会がその入選作品を「第53回二科会写真部展」の代表に選んで、ポストカードを作成した印象でしたので、ご本人に事情を確認したところ、「悪気はまったくなかった。軽はずみなことをして申し訳ない」と恐縮されていました。
 しかし、当会及び顧問弁護士の見解では「二科会写真部の名称およびシンボルマークの無断使用は、名称詐称である」と認識しており、入賞・入選作品について、「第53回二科会写真部展」の公募規約では、「著作権は作者に帰属する。使用権は原則として主催者に帰属し、他に使用する場合は当会の承諾を得ること」という内容を記載しています。
 したがって、入賞・入選作品を、ポストカード・個展・ホームページなどで公開する場合は、先ず、当会事務局に連絡して使用目的を告げ、使用の際には、「第53回二科会写真部展入選作品」という内容のクレジットを入れることが必要になりますのでご注意ください。